1929年、ドイツのフランケ&ハイデッケ社から、後の二眼レフカメラ史を大きく変える「ローライフレックス」が登場した。
現在「ローライフレックス・オリジナル(Rolleiflex Original)」と呼ばれているこのモデルは、後世のローライフレックスとは異なる、非常に個性的な機構を備えている。
その出発点には、同社が1920年代に手掛けていた三眼ステレオカメラ「ハイドスコープ」や、そのロールフィルム版である「ローライドスコープ」があった。三眼式ステレオカメラの技術を発展させ、6×6cm判の二眼レフへとまとめ上げたことが、ローライフレックスの大きな特徴である。
この記事では記念すべき初代ローライフレックスがどのように誕生したのか、その設計思想や独特の操作方法、さらにフィルムやレンズ、シャッターなどの仕様まで詳しく解説する。
なお、現在「Original」と呼ばれている名称は、後のモデルと区別するために使われている通称であり、発売当時の名称そのものが「Rolleiflex Original」だったわけではない。
- 初代ローライフレックスの誕生背景
- 三眼ステレオカメラとの深い関係
- ノブ式による独特なフィルム送り
- 117フィルムを使う6×6cm判仕様
記念すべきモデル|初代ローライフレックス
1929年に登場した初代ローライフレックスは、後に「Rolleiflex Original」と呼ばれることになる記念すべきモデルである。
フランケ&ハイデッケ社は、1920年の創業後、三眼ステレオカメラ「ハイドスコープ」を製造していた。ハイドスコープは3本のレンズを備え、そのうち1本を反射式ファインダー用として利用する構造を持っていた。この技術的蓄積が後のローライフレックスにつながっていく。
さらにロールフィルムを使用する「ローライドスコープ」が登場し、ローライフレックスの開発に必要となる6×6cm判のロールフィルム運用や反射式ファインダーの技術が蓄積されていった。
ローライフレックスは、こうした三眼ステレオカメラの構造を発展させ、撮影用レンズとファインダー用レンズの2本に整理した二眼レフカメラとして完成したのである。
Science Museum Groupに収蔵されている1929年製ローライフレックスでも、117ロールフィルム、75mmのTessar撮影レンズ、75mmのHeidoscope Anastigmatファインダーレンズを備えた初期型の仕様が確認できる。
三眼カメラから二眼レフへ
ローライフレックスの構造を理解するうえで重要なのが、前身となったステレオカメラである。
ステレオカメラは左右に配置した2本の撮影レンズで立体視用の写真を撮影するカメラであり、ハイドスコープではさらに反射式ファインダーのためのレンズが加えられていた。
つまり、ローライフレックスの基本的な考え方は、いきなり生まれたものではない。
三眼ステレオカメラで培った反射式ファインダーの技術を、6×6cm判の単一画像撮影へと発展させたものと考えると、その成り立ちが分かりやすい。
ただし「ローライドスコープから単純にレンズを1本外しただけ」という説明は、構造を理解するための分かりやすい表現ではあるものの、実際には試作と改良を重ねて製品化されたカメラである。1927~1928年頃には試作機が製作され、1929年に市販モデルが登場したとされている。
「オリジナル」は後世の呼び名
現在、初代ローライフレックスを「Rolleiflex Original」や「Ur-Rolleiflex」と呼ぶことがある。
しかし、これは後のローライフレックスと区別するための呼称である。
当時の製品名は基本的に「Rolleiflex」であり、後にStandardなどの後継モデルが登場したことで、最初期のモデルを区別する必要が生じた。
したがって、本記事では便宜上「初代ローライフレックス」または「ローライフレックス・オリジナル」と呼ぶ。
誕生のキッカケは”ある人物”の言葉だった
ローライフレックス誕生については、非常に興味深い逸話が残されている。
それが、三眼ステレオカメラからレンズを減らし、単一画像を撮影する二眼レフを作るという発想である。
一方で、この逸話については注意が必要だ。
「ある人物がラインホルト・ハイデッケに、ローライドスコープからレンズを1本減らして普通の反射式カメラを作ったらどうかと提案した」という形で紹介されることがある。しかし、現在確認できる歴史資料では、ローライフレックスの開発はハイデッケ自身の設計思想と試作を中心に説明されることが多く、特定の第三者の一言だけを確定的な誕生原因として扱うのは慎重であるべきだ。
ハイデッケは以前から反射式ファインダーを利用して撮影するカメラの可能性を追求していた。創業前の経験も含め、ステレオカメラで培った技術を基礎として、新しい二眼レフを実現していったのである。
ポイント
「ある人物の一言がローライフレックス誕生のキッカケになった」という逸話は、カメラ史を語るうえで面白いエピソードである。ただし、これを唯一の開発理由として断定するよりも、ハイデッケが長年培ってきた反射式カメラの設計思想と、フランケ&ハイデッケ社のステレオカメラ技術が結び付いて誕生したと考えるほうが適切である。
ローライドスコープ

ローライフレックスの背景を知るうえで欠かせないのが「ローライドスコープ」である。
ローライドスコープは、フランケ&ハイデッケ社が製造したロールフィルム式のステレオカメラであり、同社が先行して開発していたハイドスコープの技術を発展させた製品である。
ここで重要なのが、ローライフレックスと単なる「見た目の類似」にとどまらない技術的なつながりである。
反射式ファインダー、レンズ配置、フィルムを使った撮影システムなど、後のローライフレックスにつながる要素がすでに存在していた。
ローライフレックスは、この技術的蓄積を6×6cm判の二眼レフとして整理し直したカメラといえる。
初代ローライフレックスの製造は1929年から1932年頃まで続き、撮影レンズには75mm F4.5と75mm F3.8のCarl Zeiss Tessarが用意された。F4.5モデルは比較的少数だったとする資料もある。
そして、この初代モデルを象徴するのが、後のローライフレックスでは当たり前になるクランクではなく、側面のノブを回してフィルムを送る方式である。
初代ローライフレックスはシリーズの中でもフィルム巻き上げ機構が特に原始的で、後のモデルとの違いが非常に分かりやすい。
フィルム巻き上げ方
初代ローライフレックスのフィルム巻き上げは、後のローライフレックスを知っている人ほど驚く構造になっている。
現在のローライフレックスといえば、側面のクランクを回してフィルムを送り、一定量まで巻き上げると自動的に停止する機構を思い浮かべる人が多い。
しかし、初代にはそのクランクがない。
側面に設けられたノブを手で回してフィルムを送る方式である。さらに、フィルムの送り量を自動的に管理するカウンター機構もまだ備わっていなかった。
赤窓を確認しながら巻き上げる
フィルムを巻き上げるときには、カメラ背面にある「赤窓」を使用する。
赤窓からフィルム裏紙に印刷された数字を確認し、次のコマの位置まで手動でフィルムを送る仕組みである。
つまり、撮影者は現在のフィルム位置を自分で確認しながら操作しなければならない。
後年のローライフレックスに搭載される高度なフィルム送り機構と比べれば、かなり原始的に見える。しかし、1929年という時代を考えれば、6×6cmという大きな画面を腰の高さから確認できる二眼レフというカメラ自体が画期的だった。
初代ローライフレックスのフィルム送り
ノブを回す → 赤窓で数字を確認 → 所定の位置まで送る → 撮影
後の自動停止式のフィルム送りとは異なり、撮影者自身がフィルム位置を管理する必要がある。
なお、初代ローライフレックスについては、117フィルムを基本とする資料がある一方、初期個体や後年の改造によって620・120フィルムへの対応が見られるため「すべての個体が同一のフィルム仕様だった」と単純化しないほうがよい。特に現存する中古個体を扱う場合は、フィルム室やスプールの状態を確認する必要がある。
Rolleiflex Original|スペック

初代ローライフレックスの基本仕様を整理すると、以下のようになる。
| 項目 | Rolleiflex Original |
|---|---|
| 名称 | Rolleiflex |
| 登場 | 1929年 |
| 製造期間 | 1929~1932年頃 |
| 撮影レンズ | Carl Zeiss Tessar 75mm F4.5 / F3.8 |
| ビューレンズ | Heidoscope Anastigmat 75mm F3.1 |
| シャッター | Compur |
| シャッター速度 | 1~1/300秒、B、T |
| 画面サイズ | 6×6cm |
| 主なフィルム | 117 |
| フィルム送り | ノブ式 |
| フィルム確認 | 赤窓式 |
| 露出計 | なし |
| シリアルナンバー | 1~199,999 |
レンズについては、撮影用にCarl Zeiss Tessar 75mm F4.5またはF3.8、ファインダー用にHeidoscope Anastigmat 75mm F3.1が組み合わされる。
シャッターにはCompurを採用し、1秒から1/300秒に加えてB(バルブ)とT(タイム)を備えている。
6×6cmという画面サイズ
初代ローライフレックスの大きな特徴が、6×6cmの正方形フォーマットである。
現在の35mm判カメラでは縦位置と横位置を撮り分けるのが一般的だが、6×6cm判では正方形のため、縦位置・横位置という考え方が基本的にない。
しかも二眼レフでは撮影者はカメラを胸元から腰の高さで構え、上からファインダースクリーンを覗き込むことができる。
これは、当時のカメラ撮影に大きな自由度をもたらした。
ファインダーレンズと撮影レンズ
二眼レフでは2本のレンズがそれぞれ異なる役割を担っている。
上側のレンズはファインダー用、下側のレンズが実際に写真を撮影するためのレンズである。
初代ローライフレックスでは、ファインダー用にHeidoscope Anastigmat 75mm F3.1、撮影用にCarl Zeiss Tessar 75mmが使用された。
この構造によって、撮影者はフィルムに記録される像を撮影前に磨りガラスのスクリーン上で確認できる。
ただし、ファインダーレンズと撮影レンズは別々の光学系であるため、近距離撮影では視差(パララックス)が発生する。
初期ローライフレックスではファインダー像を利用して構図を決めるという、二眼レフならではの操作感がすでに成立していた。
シリアルナンバー
初代ローライフレックスの外部シリアルナンバーは1~199,999の範囲で管理されている。
ただし、この番号をそのまま「製造台数」と考えるのは正確ではない。モデルや資料によって番号の扱いに違いがあり、実際の製造数については外部シリアル番号より少ないとする資料もある。
そのため、コレクション目的で個体を調べる場合はシリアルナンバーだけでなく、レンズ、ボディ形状、背面構造、フィルム送り機構などを総合的に確認することが重要である。
まとめ:記念すべき初代ローライフレックスの誕生

初代ローライフレックスは、単に「古い二眼レフ」ではない。三眼ステレオカメラで培われた反射式ファインダーの技術を6×6cm判のロールフィルムカメラへ発展させ、後のローライフレックスシリーズにつながる基本構造を確立した、歴史的なモデルである。
記事のポイントをまとめると以下の通り。
- 1929年に初代ローライフレックスが登場
- 三眼ステレオカメラの技術を発展させて誕生
- 6×6cm判の二眼レフを採用
- 117フィルムを基本に使用
- フィルム送りはノブ式
- 赤窓を見ながら手動で巻き上げる
- 撮影レンズは75mm Tessar
- 「Original」は後世の区別用の名称

